September 2003

September 05, 2003

イリ・キリアンのサビーネプロジェクト

彩の国さいたま芸術劇場へ。イリ・キリアンのサビーネプロジェクト。演目は、「When time takes time」(昨年初演)「Far too close」(03年9月5日初演)。出演は、サビーネ・クップファーベルク、エゴン・マドセン。いずれも、30分、25分と上演時間は短い。「When time takes time」の方は、オープニングに度肝を抜かれた。カーテンの裾が舞台床一杯まで下ろされていて、最初舞台に布が敷き詰められているように錯覚した。ところが、金属音とともに巨大な人影が舞台上手に表れ、その指先が中央のカーテンから覗く。極端にパースがついた人影が出現したと思えばいい。そのあと、もう一つの人影。ゆっくりとカーテンが上がっていく。二人の人物による感情を秘めた静かだが力強いダンスが始まる。二人は離れたり接触したり。女性は、時に大声で笑い、時に独り言を言う。男性は、終始沈黙。全体に跳躍、走ったりということはなく、リフトはあるがそれも非常にゆっくりとしたもの。移動も少ない。しかし、動きがないというのではなく、手が烈しく動いたり頭が振られたりということはあるが、舞踏のような痙攣的な微細な動きはない。それなのに、二人の身体は、強烈な強度を放つ。感情とか情感が身体の表現として表出するということは、こういうことをいうのかと改めて確認された。最後は上から赤い花が散ってくる。次の「Far too close」は、舞台一面に赤い花が敷き詰められている。イスに座る女性がもう一人加わる。しかし、主演どころか、どこにもクレジットがないところをみると人形だったのか。今もってよくわからない。いずれにせよ、その三人のダンス。こっちは、背景のスクリーンにサビーネの鎖骨から上の裸の映像が映し出される。リアルタイムであったり、リレーがかかっていたり。ここでのサビーネのダンスは、さらに感情的。動作は大きく、いわゆる陳腐な所作が繰り返しでてきたり、こっけいな場面もある。イスが効果的に使われ、もう一人の女性と三人でからむ場面も。最後のシーンは、エゴンが一人中央にたたずむ中、敷き詰められた花をかき分けるように、サビーネがもう一人の女性をゆっくり円を描きながら引きずり回す。キリアンのダンスと音楽は切っても切れない関係にあるといわれているとおり、音楽がよかった。「When time takes time」はベートーベンの「月光」。それも子どもの弾くたどたどしいもの。それに打楽器系の効果音が差し挟まれる。「Far too close」はオリジナル曲。動作と効果音が一寸の狂いもなくシンクロする演出。音を使うというのは、キリアンにとっては音をBGMとして使うのではなく、音ともに踊るという意味らしい。その意味では素晴らしい演出。

cauliflower at 23:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0) ダイアリー | アート